#19 ダフ屋
BlueJays の World Series 出場で盛り上がるトロントの街。野球を観るためにカナダに住んでしまった僕にとっては本当にいいタイミングだった。ただ、この Championship Series 中、僕はとっても疲れていた。盛り上がりすぎ?いやいや、そんな楽しいことじゃなかったんです。そう、前からちょこちょこ書いてはいたけど、深刻な財政難に陥っていたんです。もともと、“カナダで働けばいいや”とたいしたお金ももっていかず、更に無謀なことに帰りの航空券も持たず片道キップで入国していたおいら。人生なめてるとしかいいようがありません。
で、とりあえずこの時期の僕はパンとコーヒーを軽く食べて学校に行き、昼飯は外では食べずにいちいち家まで戻ってきて50セントのサッポロ一番を具も入れずにすするという毎日。なぜこんな生活なのかと言えば、原因のひとつには「野球のチケット購入」がある。かなりたくさん買っておいたシリーズのチケット。友達が欲しがったら譲ってあげようと思ってたんだけど、だーれも興味を示さない。まぁ、もともとダフ屋に高く売ればいいやと思ってたから、しょうがないなと思って球状周辺のダフ屋のおやじに声をかけたわけ。
ぼく:「このチケット一番いい席なんだけど買わない?」 ダフ屋:「2枚で40ドルな」 ぼく:「なに?おいおい、これは1枚52ドルのチケットだぜ!冗談だろ?」 ダフ屋:「今なら2枚で40ドル。アイスホッケー始まったから野球のチケットは売れねぇんだよ」 ぼく:「・・・。ま・じ?」 ダフ屋:「試合開始時間が近づいたら2枚で30ドル。どうする、ボーイ?」 ぼく:「じゃぁ、いいよ。結構だ!バイバイ」 |
なんてこったい。これじゃ、大損じゃねぇか。恐るべしアイスホッケー。恐るべしカナダ人。いくらアイスホッケーが国技だからって野球のほうは Championship Series だぜ?よくわからん国民だ。だから誰も買わんのかと途方に暮れる・・・。
ダフ屋には売らない!とつっぱってみたけど、とにかく僕はとっても追い詰められたわけで、今更買ってくれる友達はいないし、ダフ屋に売ったら大損だしで頭抱える状態となった。が、人間追い詰められると何でもできるっていうやつで次の瞬間僕は自分がダフ屋になることを決心する。これって犯罪・・・、でも生きていくためにはしょうがない。このチケットを売らないと来月以降の家賃払えないし、日本に帰る航空券代もってないしで路頭に迷っちまうもんね。やるしかないっつーことで僕は球場周辺で声を張り上げチケット販売を開始した。
寄ってくる寄ってくる。こりゃ、売れるかな?と思い最初の客と交渉しようと思ったところ、いきなりグイっと腕をつかまれる。おいおい、なんだなんだ?唖然とする僕。とその客は「ここは俺たちのテリトリーだ。でてけ!」とのたまうではないか。そう、客じゃなくてダフ屋だったんですねぇ。なんでも、僕が声を張り上げていたところは彼らのグループのテリトリーっていうことらしく、「ふざけんな、でてけ!」ってことらしい。危ない危ない。と心を入れ替え、場所を変えて販売活動再開。が、今度は他のダフ屋グループのテリトリーに入っていたらしく、いかついオヤジが迫ってくる。すべての空間がいくつかのダフ屋グループによってテリトリーわけされているっていうことで、要するに僕が売れる場所はないっていうことのようだ。それに、よく見てると私服警官がうろついてるんだよね。僕はちょっとここで怯んだ。「さっきのダフ屋に売れば少なくとも40ドルは回収できる。このままじゃ丸損だ」。でも、なぜか僕は自分がダフ屋として売るほうを選んじまったんだよねぇ。
というわけで、僕はダフ屋と私服警官から逃げながらの販売活動を進めることに。で、よくよく見るとダフ屋は日本人観光客をとってもカモっている。どんなチケットでも最初は300ドルで売ろうとしているではないか。かわいそうな日本人はそのまま値切りもせずに買っていくのである。今日を逃せばもう帰らなければいけない観光客は少々高くても買っていく。これは僕が観光客の立場でもそうだろう。まぁ、300ドルは高いからちょっとは値切るけどね。で、僕は日本人向けに「安心の日本語」と「低価格(120ドル)」と「持ち前の爽やかさ」でチケットを販売することに。悲しいかな日本人、120ドルという定価の倍以上の値段でもとっても喜んで買っていってくれる。今考えるととんでもない詐欺行為だっていうのに、「え?120ドルで譲ってもらえるんですか?これ高かったでしょ?ありがとうございます」なんて逆に感謝されて・・・。外国人はさすがに120ドルじゃ買ってくれませんでしたねぇ。値切られて20ドル程度の上乗せで買ってくれるっていう感じでしょうか?
こんな感じでこのシリーズ中僕は試合開始まではダフ屋としてチケットを売り、試合が始まれば野球観戦というよくわからん生活を。はっきり言って、試合が始まる頃には心身ともに疲れきっていたと言うのが事実。ダフ屋に脅されるのは嫌だから逃げまくっていたし、警官にしょっ引かれて強制送還は絶対に避けたい。でも、チケットを売らないと生きていけないという状況で疲弊してました。ただの犯罪行為なんでここに書くべきではないと思いますが、とりあえず事実は事実として反省しここに書くことに。あの時、高く僕からチケットを買った人たちごめんさい。カナダに住むお金のない青年への寄付だったと思ってください(ちょっと調子いい?)。そう、僕はわざわざワーキングホリデー・ビザをとりながら仕事はダフ屋をやっていたという変わり者なのでした。関係者のみなさん、すみませんでした。お許しを〜。